京都大学ボヘミアン物語

京都大学ボヘミアン物語

著:藤井満

書店発売日:2024年2月1日
定価:1,600円+税
ISBN:978-4-87177-366-9

昭和末期の京都、もてない、金がない、品もない。「京都一の変態」とよばれたアウトドアサークル「ボヘミアン」。そこに集う学生たちの少し情けなくて少し切ない、抱腹絶倒の物語。


目次
プロローグ 狂乱の大文字の宴
第1章 ボヘミアンことはじめ
 新歓シーズン、女子大生ではなくあやしい人ばかり寄ってくる
 「内ゲバ」がこわくて寮を脱出
 ティッシュがころがる霊界の入口
第2章 ボヘミアンの野外活動
 必須スキルはヒッチハイク
 合コンの壁はチークタイム
 「婚前交渉は許さん」正義の男の転向
 隠岐サバイバル(上)みそをめぐる10時間論争
 隠岐サバイバル(中)丁稚はアワビ名人へ カリスマ隊長は権威失墜
 隠岐サバイバル(下)開き直った脱走犯
 積丹サバイバル1986
 夕張炭鉱の底辺で「寅さん」にであう
 ひまーな夏休み、さびしい男は宇宙人にさらわれた
第3章 ボヘミアンの表現活動
 幻の映画「イーガー皇帝の逆襲」
 「劇団ボヘミアン」旗揚げ35年つづく体育会系イベント
 師走の駅伝にミイラ男
 恥かくために都大路を駆ける「ボヘマラソン」
第4章 ボヘミアンの日常生活
 主食はパンの耳、ふるまい料理は白菜シーチキン鍋
 「ボヘハウス」誕生 ネコ1匹とズボラ2匹がママを翻弄
 日記・文集・新聞……ボヘ・メディア発達史
第5章 ボヘミアンの旅
 メコンの村の小さな恋にドキドキ
 マニラ 革命と詐欺と売春の洗礼
 破壊力抜群の失恋騒動
 ボヘ志願女子続出 ゆれる「女人禁制」
 世界を知り ママはオトコになった
 情愛と欲望は革命家を堕落させた
コラム 京大生奇行伝
コラム 春歌・猥歌は民衆の生きる力


あとがきより
 高校時代、レイチェル・カーソンの「センス・オブ・ワンダー」をよんだ。
「センス・オブ・ワンダー」とは、神秘や不思議さにおどろき目をみはる幼児のような感性を意味する。
 幼いころ、土手でつんだノビルやツクシが食卓にのぼると興奮してたべた。夜の別荘地を散歩して、道が真っ暗な森でいきどまりになると、「森の奥になにがあるの? いってみようとおやじの手をひいた。大人にとっては「行き止まり」だけど、子どもにとっては「別世界への入口」だった。ものすごい速さでながれる台風の雲や増水で湖と化した河川敷は、ノアの方舟の世界がこの世にはみだしてきているように思えた。
「地球の美しさと神秘を感じとれる人は、科学者であろうとなかろうと、人生に飽きて疲れたり、孤独にさいなまれることはけっしてないでしょう。たとえ生活のなかで苦しみや心配ごとにであったとしても、かならずや、内面的な満足感と、生きていることへの新たなよろこびへ通ずる小道を見つけだすことができると信じます。地球の美しさについて深く思いをめぐらせる人は、生命の終わりの瞬間まで、生き生きとした精神力をたもちつづけることができるでしょう」(上遠恵子訳、新潮文庫)
 カーソンのそんな文章を高校生のぼくは日記に書きうつしていた。
 センス・オブ・ワンダーは、Sence of wonderなのだけど、ぼくは最近まで、Sence of wanderとかんちがいしていた。「放浪する、さまよう感性」、すなわち「ボヘミアンの感性」だ。
 放浪の旅は、神秘や不思議さに目をみはる感性をそだててくれる。さまよい遊びつづける放浪者(ボヘミアン)の心をもちつづければ「生き生きとした精神をたもちつづけられる」。なかばそう信じてきた。
 ボヘミアンの心だけでわたっていけるほど人生甘くはないのだけど、遊び心がさまざまな局面で小さな助けになってきたのはたしかだ。
 ぼくらにのこされた時間は長くてもあと20年か30年だ。「生命の終わりの瞬間まで、生き生きとした精神力をたもちつづけ」られるように、学生時代のSense of wanderと、なにもかもが新鮮だった幼いころのSense of wonderをちょっとずつでもとりもどしていきたい。
 この本がそのためのお役にたてば……なんて、たいそうなことはかんがえていません。下品で滑稽な昭和末期の学生たちのバカバカしい生態をたのしんでいただけたら幸いです。


著者プロフィール
藤井満(フジイミツル)(著)
東京都葛飾区生まれ。京都大学文学部卒。在学中に中南米、東南アジアを取材する。卒業後、朝日新聞社入社。静岡、愛媛、京都、大阪、島根、石川、和歌山、富山に勤務し、2020年に退社。フリージャーナリストとして活動を続ける。
著書に、『僕のコーチはがんの妻』(KADOKAWA)、『北陸の海辺自転車紀行』(あっぷる出版社)、『能登の里人ものがたり』(アットワークス)、『石鎚を守った男 峰雲行男の足跡』(創風社出版)、『ニカラグアを歩く 革命と内戦の今昔』(日本図書刊行会)などがある。

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