植手通有集

第1巻 『明治思想における人間と国家』 <6月3日刊行>
 ISBN 978-4-87177-330-0

第2巻 『徳富蘇峰論』 (付 「内村鑑三と国民道徳の観念」)<7月1日刊行>
 ISBN 978-4-87177-331-7

第3巻 『丸山真男研究』 (解説 飯田泰三)<7月31日刊行>
 ISBN 978-4-87177-332-4

体裁:A5判上製・函入
定価:各巻本体3000円+税

「植手通有集」刊行のお知らせ

 この度、「植手通有集」の刊行が決まりましたのでご案内いたします。植手先生は、1995年に成蹊大学を退職し、日本政治思想史研究に専念しておられました。この間に、武蔵野市からの依頼を受けて『武蔵野市百年史 記述編I』の執筆を進めておりましたが、緑内障を患い、執筆に支障をきたすようになってしまいました。しかし、極度の視力低下と視野狭窄状態に陥ってしまった後も、研究に対する思いは衰えることがありませんでした。関連資料を久美子夫人らがテープに吹き込むことで音声化し、その音声テープを聞きながら考察を続け、自らの考えをテープに吹き込むことで原稿化するという、じつに気の遠くなるような作業を続けていました。そして、植手先生は、数多くの音声原稿を残したまま、2011年7月30日に逝去しましたが、その後も久美子夫人や弟子たちが作業を続け、このたび、著作集として刊行の運びとなりました。

 この全集で植手通有は、目まぐるしく変化していく日本社会にあって透徹した眼差しで近代日本のあるべき姿を追究し続けたジャーナリスト陸羯南や徳富蘇峰の思想を論じています。明治以降の政治思想史、ジャーナリズムを語る上で有益な教科書となるのみならず、現代の政治研究をおこなうものにとっても実に示唆に富んでいる論集です。加えて、お読みいただければご理解いただけると思うのですが、本書で描かれている明治から昭和までの知識人文化人の悩み方と思想の変遷は、この数年間の、日本の政治思想のあり方と似ている部分が多く見受けられます。歴史の認識を再考するヒントになるのではないかと思います。

 また、植手通有といえば、丸山真男の弟子の中でも、もっともずけずけともの申した人物です。師である丸山真男の思想を、もっとも身近にいた者の目を通してみた、植手でなくては論じえない丸山真男研究は、必読だといえます。

植手通有集の内容

植手通有集1 『明治思想における人間と国家』  2015年6月3日刊行

刊行にさいして   植手久美子

I 明治草創――啓蒙と士族反乱――
はじめに
第一節 明治の啓蒙思想――福沢諭吉を中心として――
第二節 明治政府と開化物
第三節 士族民権論と士族反乱――過激政論雑誌を中心として――
II 中江兆民と『三酔人経綸問答』
はじめに
第一節 民権運動最盛期の兆民
第二節 三人の登場人物
第三節 『経綸問答』の主題
第四節 紳士君の思想
第五節 豪傑君の思想
第六節 南海先生の思想
III 蘇峰の平民主義と羯南の国民主義
はじめに
第一節 蘇峰の平民主義
第二節 羯南の国民主義
おわりに
IV 日清戦争後における陸羯南
はじめに
第一節 戦後経営への反抗
第二節 自由主義的側面の効用
第三節 過去の発言についての弁明
第四節 帝国主義=軍国主義批判
第五節 欧州列強との勢力均衡の保持
第六節 日露戦争下の対外的発言
おわりに
あとがき

植手通有集2 『徳富蘇峰論』  2015年7月1日刊行

刊行にさいして   植手久美子

はじめに
I 自由民権から平民主義へ
第一節 「官民の調和を論ず」
第二節 『政治家の資格』
第三節 『自由、道徳、及儒教主義』
II 平民主義の思想
第一節 『新日本之青年』
(一)厳しい現実と明るい展望
(二)時勢観の変遷
(三)西洋文明の理解
(四)自然科学的方法への関心の消去
(五)蘇峰の精神主義
(六)青年論と世代論
第二節 『将来之日本』
(一)激しい慷慨
(二)国際社会の発展動向
(三)社会の歴史的発展動向
(四)政治的思考の弱さ
(五)転向後の思想的要素の存在
(六)明治維新観
III 平民主義から国家膨張主義へ
第一節 『吉田松陰』
第二節 『大日本膨張論』
IV 大日本帝国イデオロギーの構造
第一節 『時務一家言』
(一)執筆の由来
(二)慷慨の変化
(三)帝国主義と社会主義
(四)満蒙経路
第二節 『時務一家言』つづき
(五)「貧国強兵」
(六)政府形態の見通しの欠如
(七)「白閥打破」
あとがき

付 「内村鑑三と国民道徳の観念」――『内村鑑三全集』 第3巻月報より

植手通有集3 『丸山真男研究 ~その学問と時代』  2015年7月31日刊行

刊行にさいして

はじめに
I 敗戦まで
第一節 研究者になるまで
第二節 徳川思想史
(一) 「徂徠学の特質」
(二) 「『自然』と『作為』」
(三) 「国民主義の前期的形成」
第三節 敗戦までの福沢研究
(一) 明治史との出合い
(二) 福沢研究の発端
(三) 「福沢における秩序と人間」
II 敗戦直後
第四節 研究の二つの焦点
第五節 日本ファシズム研究
(一) 「超国家主義の理論と心理」
(二)  「日本ファシズムの思想と運動」
(三)  「軍国支配者の精神形態」
第六節 明治思想史
(一)  「明治国家の思想」
(二) 「陸羯南」
第七節 福沢諭吉研究
(一)  「福沢における『実学』の転回」
(二)  「福沢諭吉の哲学」
(三) 「福沢研究補論」
第八節 日本文化論
(一)  「科学としての政治学」
(二)  「肉体文学から肉体政治まで」
(三)  「思想のあり方について」
(四) 「『である』ことと『する』こと」
(五) 丸山の日本文化論と西洋主義
おわりに

解説 飯田泰三

植手通有

1931年愛知県生まれ。東京大学文科Ⅰ類卒業。丸山眞男に師事し日本政治思想史を学ぶ。修士論文は「徳富蘇峰論」、博士論文は「陸羯南論」。1971年成蹊大学法学部政治学科教授。1995年成蹊大学を退職。著書に、『日本近代思想の形成』(岩波書店)、『武蔵野市百年史記述編I』武蔵野市)。ほかに、「明治啓蒙思想の形成とその脆弱性」(『日本の名著34 西周・加藤弘之』中央公論社)、「対外観の展開」(橋川文三・松本三之助『近代日本思想史大系第3巻近代日本政治思想史』有斐閣)、「解題」(植手通有編『明治文学全集34徳富蘇峰集』筑摩書房)、「平民主義と国民主義」(『岩波講座日本歴史16近代3』岩波書店)、『明治草創=啓蒙と氾濫』(社会評論社)、『日本思想体系55渡辺崋山・高野長英・佐久間象山・横井小楠・橋本左内』『丸山眞男回顧談』(岩波書店)などがある。2011年7月逝去。