秘境探検 西表島踏破行

秘境探検 西表島踏破行

著:安間繁樹

書店発売日:2024年11月18日
定価:2,500円+税
ISBN:978-4-87177-369-0

西表島に関ること60年、島の自然と文化を観察し続ける動物学者が、西表島の山、川、海。そのすべてを歩きつくした。おそらく今後誰にもできないであろう貴重な記録。詳細な行動地図や1965年以降の写真など、豊富な資料も収録。


目次

第1章 西表島の道
島と道の移り変わり
琉球国時代から第二次世界大戦終了までの道
第二次世界大戦後の道
一九六五年から沖縄の日本復帰頃の道
「西表縦貫道路」の着工と中止
沖縄の日本復帰から現在まで

第2章 東海岸
ボーラ沢
ボーラ沢遡上
仲間第一支流
仲間第一支流下降
仲間北西源流
仲間北西源流遡上
仲間川感潮域両岸
仲間川南岸(右岸)を遡る
仲間川北岸(左岸)を下る 
後湊川(シイミナト川・シンミナト川)
後湊川渓流域遡上 
赤井田川(アカイダ川)
赤井田川下降 
前良第一支流
前良第一支流遡上

第3章 西海岸
トイミャーバラ川下流域        
トイミャーバラ川下流域を下降(仲間北西源流遡上より続く)
仲良川感潮域南岸(左岸)
仲良川感潮域南岸を歩く
ヒドリ川(日取川)
ヒドリ川を歩く(カブリ崎からヒドリ川河口へより続く)         
浦内源流南沢
浦内源流南沢下降 (前良第一支流遡上より続く)
ヒナイ第一支流
ヒナイ第一支流遡上
カンナバラ沢
カンナバラ沢下降
板敷第三支流
板敷第三支流遡上
ピナイサーラの滝右岸を歩く

第4章 崎山半島
アヤンダ川
アヤンダ川遡上
ウビラ川
ウビラ川下降
ペーブ川
ペーブ川遡上
パイタ川
パイタ川下降
ウルチ道
崎山湾から網取へ
フカイ川
フカイ川遡上
ユナラ川
ユナラ川への分水嶺を歩く 
ユナラ川下降

第5章 海岸線
東南海岸線
南風見田の浜から大原へ
西海岸線中部北半分
浦内川から干立へ
西海岸線中部南半分
石垣金星さんの霊前で焼香
祖納から白浜へ
西海岸線南部
カブリ崎からヒドリ川河口へ 
ヒドリ川河口から白浜への帰路 (ヒドリ川を歩くより続く)
網取湾西海岸線
網取からウダラ浜へ (崎山湾から網取へより続く)
東および北海岸線
大富から上原へ

行動記録
装備について
西表島の沢一覧


前書き
 最初に西表島へ行ったのは一九六五年、ちょうど二十歳の夏だった。未知のヤマネコ発見というニュースがきっかけだった。滞在中、海岸沿いに歩いて島をほぼ一周した。まったく情報がなかったから、ほとんど探検のようなものだった。この経験から西表島の自然に限りない魅力を感じ、その後は毎年島を訪ねた。学生の身であるから、せいぜい夏休みを利用して年に一回だけの旅であった。目的としては、様々な生き物や植物を見てみたいということだが、実際に山へ入ると歩くばかりで、生き物の観察などあまりしていなかった。
 そんな山歩きだったが、当時あった浦内川沿いの横断山道や、白浜と大富を結ぶ山岳地帯の横断山道を歩いたりした。また、古見岳や御座岳にも登った。いつも一人だった。行ってみたいという強い気持ちは自分だけのものだったから、誰かを誘おうと思ったことはなかった。
 その後、一九七〇年代は約三年間、西表島で生活した。イリオモテヤマネコの生態研究のためだった。この期間は、生き物や植物をじっくり観察することが多かった。しかし、たまに来訪があり、案内がてら横断山道を歩いたりした。古見岳、テドウ山にも登った。
 一九八五年、初めてボルネオ島へ行った。翌一九八六年から二一世紀初頭まで多くの期間をボルネオ島で過ごした。自分の研究と、途上国の研究者を育てる仕事だった。熱帯降雨林に分け入る時は、西表島での体験がどれほど役に立ったことだろうか。西表島ぬきでは、ボルネオ島で納得のいく研究成果が得られなかったはずだ。一方この間、西表島を訪ねる機会は数回のみだった。
 二〇〇〇年を過ぎると、日本とボルネオでの生活が半々となり、これを機に西表島訪問を再開した。若い頃に歩いた西表島の山や沢を歩きなおしてみたいと思った。最初は、単なる「青春への懐古」だったかもしれない。ところが、いざ山歩きを再開すると、新たな好奇心が湧いてきた。西表島と関わりをもってから今日まで六〇年が経つ。その間に自動車道が開通し、農道も次々と整備された。一方、建築材や舟材を探すための山道、村と村を結んでいた山道は使われなくなり、森に消えていった。
 西表島は決して大きな島ではない。「前人未踏」の地域もない。おそらく、ほとんどの沢や稜線が、一度は道として使われたことがあるに違いない。そこを歩くことで森林を眺め、岩肌をしっかりと見つめて自然の移り変わりを想像する。さらには、「この滝をどうやって越えたのだろう」「峠から海を見て何を思ったのだろうか」と、かつてそこを通ったであろう先人たちに想いを馳せるのも楽しいことだと思うようになった。
 本著に登場する沢や山歩きは、すべて六〇歳以降のものだが、一貫して単独行である。ルートによって重複する部分もあるが、GPSを用いて滝や特徴のある地形の位置を正確に記録するよう努めた。テントも持ち歩かず、浜でも岩の上でもそのまま寝ていた若い頃と違って、今は野営であっても快適な夜を過ごしたいと思うようになった。そのため装備は増え、歩く速度も遅くなる。体力的な衰えもある。八〇歳を区切りとして、これまでのやり方を一段落させ、その後は、新たな方法で西表島の山と沢歩きに挑戦していきたい。


版元より
著者は動物生態学者であり、筋金入りのフィールドワーカーです。「探検」というタイトルをつけていますが、本来、生態学は探検そのものでした。西表島の森を今も歩き続け、それを記録し、書籍にすることは、おそらく他の誰にもできないことだろうと考えています。西表の自然に留まらず、島の発展してきた経緯、人との関わりにもふれた、非常におもしろい読み物であり、なおかつ貴重な資料となるはずです。


安間繁樹(ヤスマシゲキ)
1944年 中国内蒙古に生まれる。
1963年 清水東高等学校(静岡県)卒業。
1967年 早稲田大学法学部卒業。法学士。
1970年 早稲田大学教育学部理学科(生物専修)卒業。理学士。
1979年 東京大学大学院農学系研究科博士課程修了。農学博士。哺乳動物生態学専攻。
世界自然保護連合種保存委員会(IUCN・SSC)ネコ専門家グループ委員。熱帯野鼠対策委員会常任委員。公益法人平岡環境科学研究所監事。日本山岳会会員。
2004年 市川市民文化ユネスコ賞受賞。
2019年 秩父宮記念山岳賞受賞。

初めての西表島は1965年7月、20歳。島の自然に魅せられ、若い頃は琉球列島の生物研究に没頭、特にイリオモテヤマネコの生態研究を最初に手がけ、成果をあげた。40歳からは、おもに国際協力機構(JICA)の海外派遣専門家として、カリマンタン、ブルネイ、サバに足掛け25年、正味16年間居住、ボルネオ島の動物調査および若手研究者の育成に携わって来た。
定年後も西表島とボルネオ島へ通い続け、研究そのものではないが、両島の自然と人々の営みを、着せず飾らず、あるがままに記録し続けることをライフワークとしている。

主な著書 琉球列島関係
『西表島探検』『イリオモテヤマネコ狩りの行動学』『南島探検』(あっぷる出版社)。『ネイチャーツアー西表島』『琉球列島―生物の多様性と列島のおいたち』(東海大学出版会)。『西表島自然誌』『石垣島自然誌』(晶文社)。『動物がすき イリオモテヤマネコをとおしてみえたこと』(福音館書店)。『マヤランド西表島』(新星図書)。『野生のイリオモテヤマネコ』(汐文社)。『やまねこカナの冒険』『闇の王者イリオモテヤマネコ』(ポプラ社)。
ボルネオ島関係
『キナバル山』(東海大学出版会)。『ボルネオ島アニマル・ウォッチングガイド』(文一総合出版)。『ボルネオ島最奥地をゆく』(晶文社)。『カリマンタンの動物たち』(日経サイエンス社)。『熱帯雨林の動物たち』(築地書館)。『失われゆく民俗の記録』(自由ヶ丘学園出版部)。
その他  
『ヤスマくん、立ってなさい』(講談社)。『アニマル・ウォッチング』(晶文社)。
「熱帯雨林のどうぶつたち」 2010年より96回にわたりネットマガジン『どうぶつのくに.net』に連載。
「熱帯の自然誌」。2016年より100回にわたり連載。(『文化連情報』日本文化厚生農業協同組合連合会)。

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